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2022年3月19日土曜日

ロシアの作家から2月28日に届いたメール

ロシアの出品作家から2月28日に届いたメールです。
FANTANIMA!では人気作家で
、その作品は今までにたくさん、日本のお客様に迎えられ愛されています。
これは羽関個人に宛てられたメールでしたが、公開して良いか尋ねたところ、自分たちの考えを皆さんに知ってほしいということで公開することにしました。作家名は伏せさせて頂きます。

このほかにもロシアからは、長文、短文でそれぞれの思いが寄せられています。
考え方はそれぞれで、「平和解決」も立場が違えばまったく違う結果となります。
ロシアの作家のあいだでは、経済制裁の一面しか知らされず不安になっている人、日本人や西側の人はアメリカに影響を受けすぎていると考える人などがいます。さらに、この人のようにウクライナ人から責められるうえに反戦を唱えることでロシア人からも責められ、自分の勇気のなさを嘆く人も、ロシアでは少なくないようです。
この作家とは別の作家も、同様の思いで食事も口にすることができなくなるほど精神的に辛くなり、国外に脱出しました。

この手紙を書いた作家は、その苦しい思いを吐露せずにはいられなかったのでしょう。発表を前提に書かれたものではないので、不適切な表現もあるかもしれません。しかしこの手紙に書かれた彼女と家族が抱えている悲しみは本当のことであり、それを私達が知ることででも、私達は彼らの支えになれると思っています。(羽関チエコ)


以下メール内容----------

昨日からメールしたいと思ってましたが、できませんでした。これは簡単な内容ではないからです。
私の心は恐怖と苦痛で埋め尽くされています。
私の一族のほとんどすべてはウクライナに住んでいるのです。大家族のほとんどがです。母方、父方、それぞれに近い親戚たちばかりです。

あのモンスターがこの戦争を始めました(私は彼を名前で書けないし、書きたくもない。それどころか人間と呼びたくない)。
彼は罪のない多くの人に爆弾を落とし続けています。そこには私の従姉妹と1歳半の娘、病気を抱えた彼女の夫もいます。
86才の祖母もいます。従姉妹はロケット弾による火災から逃れ、二人目の従兄弟はキエフを守備するボランティアに志願しました。大好きな親友の作家もキエフにいます。他にも本当に沢山の作家の友達がウクライナ中にいます。

今起きていること…それはどちらが正しくてどちらが間違っているかという問題を超えています。
私は、私の家族はこの忌まわしい生き物による政権が起こす戦争や軍事侵略には全面的に反対です。特にウクライナに関しては。
私達はみな、ウクライナで生まれました。両親も、祖父母もウクライナ人です。私もウクライナ人です。今はロシアにいますが、どこに住んでも自分たちはウクライナ人だと考えています。

私達の誰もが、心を失ったこの極悪非道な老人のために、この国が侵略者になってしまったことを耐えがたいほどに恥じています。
世界中の人に対して恥ずかしい、そして耐えがたいほど恐ろしい。これが私が伝えたい一番大切なことなのです。
でも私の語彙は十分ではありません。そして自分が今感じていること、ひどい国家にいることを表現しきれるほどの強さが私にはありません。

この戦争が始まる前、既にこの惨状を予感させる不穏な状態で、私達はFANTANIMA!のためになんとか作品を作り続けました。でも侵攻が始まってからは作りかけのものに触ることさえできなくなってしまいました。

私達はシェルターや地下に避難した家族のことしか考えられなくなり、仕事をする力がなくなってしまったのです。今日、月曜日、なんとか気持ちを取り直して仕事を続け、できるものだけでも早く日本に送ろうと決めました。

もし…飛行機が飛ぶなら、もし日本への輸送ができるなら、もし、もし、もし…。(もっと大きな「もし」ということを考えたくないです。)

ひとつだけお聞きしたいことは、もし作品の到着が遅れても、展示をしてもらえますか?私達は、本当に日本での展示の機会を失いたくないんです。
(※この手紙の前に、FANTANIMA!からは各国の作家に作品が東京展に遅延した場合は関西展、それにも間に合わなければさらに臨時展示を考えるので、制作や発送を諦めないで欲しいと伝えるメールを送っていました。)

それはお金だけのためではないんです。世界のため…世界中の人たちがみんな一緒になるため。互いに支えあうため。このようなささやかな機会であっても。

また、たった今もここで繰り広げられているもうひとつの悲劇があります。

ロシアにはこの悲惨でおぞましく恥ずかしい戦争に心から反対している人達がいます。全体主義の国に暮らしたことがない自由な世界の人に対して、ウクライナへの戦争への抗議行動のリスクを説明するのは難しいことです。フェイスブックやインスタグラムへの投稿でさえ、実際の生命や健康、自由を脅かすことになります。

平和への集会や規制について語ってはいけないのです。人々はとても、とても怖がっています。でも最小限に、できることをしています。
何か書いたり抗議すると、拘束されたり仕事を解雇されます。
ひどい障害を与えられます。容赦なく殴られます。殺されもします。
まだ乳飲み子のいる若い父親はフェイスブックに投稿しただけで牢屋に入れられました。集会に人が多く集まるほど、素早く牢獄に拘束されてしまいます。モンスターはさらに容赦なくなります。

彼は人々の怒りにはおかまいなしです。何が起きているかよく理解している多数の人々は、この国と世界から彼を排除することができません。何か改革や変化をもたらすこととができたはずの政敵たちは、駆逐されるか暗殺されました。

この暗い2月のあいだ、ボリス・ネムツォフ(2015年モスクワで殺害される)、ヴァレリヤ・ノヴォドヴォルスカヤ(2014年毒素性ショック症候群で死亡)、アンナ・ポリトコフスカヤ(2006年自宅アパートで射殺される)のビデオを見てました。この人達は、みな殺されてしまったのです。
この知性ある人達が生きているときに発していた警告、予想していた結末の言葉を聞きながら、泣きました。
泣いて、泣いて、泣いて、ずっと泣いてました。

ロシアではこの残酷な現政権を支持する熱心な人達がいて、反対論者に対して活発な活動をしています。この「人達」に理解を求めるのは不可能です。彼らは無条件にロシアのテレビがプロパガンダで言うことを信じています。嘘、嘘、嘘、途方もないほど冷淡で倒錯した、狂気じみた汚い嘘が、ロシア人を洗脳するのです…。

そしてそれに反対する、とてつもなく憂鬱な人達がいます。今、まさにこの時、私達はこの狂った殺人者が統治者である国に閉じ込められてしまったと知ることになったのですから。

私達は第二次世界大戦中のドイツに住んでいたユダヤ人みたいな感じがします。残念ながら美しい例えではありません。
自由な独立国にある住宅地で、ロケット弾がウクライナ人を殺傷しているのもおぞましい事実です。私達はこの地獄からどこにも逃げ出せない人質なのです。どこか他の国に行けば、彼が支配する国の民として殺人者にされてしまうのです。

鉄のカーテンが降りてしまいました。ロシアにはたくさんの「親しい」関係にある人形作家たちがいますが、ウクライナを支持する私達をファシストと呼び、私達が死ねばいいと思っています。将来について厭な考えばかりが浮かんできます。
将来について考えることができません。私たち家族はただ生き延びようとしているだけなんです。
私達の母なる国と今暮らしている国で毎日繰り返される殺しあいを報じる、気が狂いそうなほど恐ろしいニュースのあいだで。

戦争に反対したために、ウクライナ語を話したために、ウクライナとウクライナ人を支援したために殺される。毎日。
しかしウクライナが勝利することにモンスターが気づいた時を考えると恐ろしいです(実際そうなります。それが2022年の本当の奇跡。奇跡の国。奇跡の人々。人々は奇跡を起こします)。
そうしたら彼はロシア内で彼に反抗した人たちに、密室で恐ろしい復讐をするでしょう。世界はそれに気づくことすらないでしょう。赤いボタンを持った精神倒錯の殺人者を殺人者として糾弾するロシア市民を、誰も助けにきてはくれません。

人々は抗議の署名をし、戦争反対の集会に出ていきます。私達はウクライナ人のために祈ります。神が人々を守りますように、命が助かりますように、人々を殺す戦争犯罪が止まりますように。

また、私達はもっと自分に勇気を持てるように祈ってる、誇りを尊厳をもってどんな状況にも耐えたサムライの勇気を私達も得られるようにと。

この手紙は感情的になりすぎてしまったかもしれません。でも、この気持ちを他の人に伝えることが、今の私達にとってとても重要なことなんです。
このメールはいつもと違うアドレスから送っています。ロシアのサーバーからメールを送るのは避けました。
これは私と家族全員からのメッセージです。